福岡地方裁判所 昭和31年(行)31号 判決 1959年7月10日
原告 有限会社波佐間食料品店
被告 福岡税務署長
訴訟代理人 小林定人 外二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告が原告の昭和二九年四月一日より同三〇年三月三一日までの事業年度所得金額更正に対する再調査請求につき昭和三一年五月一一日附でなした同事業年度分の所得金額を金四九三、一〇〇円とする旨の決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として
(一) 原告は食料品販売業を営む有限会社であるが、昭和二八年三月三一日青色申告の承認を受けた。
(二) 原告は被告に対し昭和二九年四月一日より同三〇年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)分所得金額を金四九、八七九円と算定して、同三〇年五月四日に確定申告したところ、被告は同三一年一月三一日附をもつて右所得金額を金二、五九一、一〇〇円とする更正処分(以下「原処分」という)をして翌二月三日その旨原告に通知をした。そこで原告はこれを不服として同年二月一三日被告に対し再調査請求をしたところ、被告は同年五月一一日原処分の一部を取消して、前記所得金額か金四九三、一〇〇円とする旨の決定(以下「本件決定」という)をして同月十七日その旨原告に通知をした。そこで原告は更に右決定を不当として、同年五月二四日訴外福岡国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は同年七月三一日右審査請求を棄却する旨の決定をし、原告に対し翌八月一日その旨の通知が到達した。
(三) しかしながら被告のなした本件決定は次のような理由により違法であるから取消さるべきである。
(1) 原処分には適法な理由の附記を欠いているから違法であつて、本件決定もその違法を承継している。即ち政府が青色申告書の提出された事業年度分につき更正をする場合には、当該法人に対する通知の書面に理由を附記しなければならないことは、法人税法(以下単に「法」という)第三二条に規定するところであるが、右理由の附記が要求される所以のもは、白色申告と異り青色申告の場合には推計による更正が許されず、原則として帳簿書類の計算により誤りがあると認められる場合に限つて更正ができる(法第三一条の四)ことに照らせば、青色申告についてはなるべくその確実性を尊重し、税務当局がこれを軽率に更正することを防止し、更に納税者に対して更正の理由を明らかに知らせて、これに対し不服の申立をすべきかどうかを判断するについての資料となさしめるためであると解すべきであるから、右規定が効力規定であることは明らかであつて、原処分はその理由として単に否認の金額(しかも役員四名分を一括して)を記載するのみであり、原告としてはこれによつて原処分の適否を知ることができず、結局において前記規定によつて要求される適法な理由の附記を欠くものといわねばならず、本件決定もその違法を承継しているから取消さるべきである。
(2) 本件決定は役員給与額の否認によるものと思われるが、被告はかかる否認権を行使し得る権限がないのに、右決定をしたものであつて違法である。即ち、政府がかかる同族会社に対するその行為又は計算の否認をなし得るのは、法第三一条の四によつて更正又は決定をする場合に限るのであつて、独立して行為計算の否認をし得ないことは法第三一条の三に照らし明らかである。本件決定は、役員給与否認の部分のみを除き原処分の更正に関する部分はすべて取消し、結局役員給与の否認の部分のみを認めたのであるから、畢竟更正を離れて否認のみをなしたのであり取消を免れない。
(3) 原告の役員支給給与は正当であつて法人税の負担を不当に減少させるような過大なものではない。
即ち原告の役員は代表者波佐間喜与巳をはじめとして極めて勤勉であり、他の同業者と比較すれば、その勤務内容において質的にも量的にも遙かに程度が高いのであつて、これは同業者の一致して認めるところであり、特に営業場所の地理的事情から船舶を相手とする取引が比較的多く、月の半ば以上行われる船積の際には、役員全員が早暁より率先して業務に服している実状である。
尚個々の役員について述べるならば
(イ) 代表者波佐間喜与巳は毎朝七時(夏季は六時)に店を出発して、使用人一名と共に市内西新町西福岡青果市場に至り、青果の出廻り状況を視察後、直ちに南福岡青果市場に至り、出荷状況を見て仕入れをした上、午前十一時頃帰店し、使用人と共に青物の水洗、選別(他店は二・三区分に留まるが、原告は四ないし八区分にしている)をなし、午后三時頃客足の少い時を見計つて再び果物の選別をする。その他他店と異り、終日陣頭に立つて従業員を監督し、率先して販売に従事し、夜は午后一〇時の閉店まで毎日十五時間夏季は十六時間勤務する。
(ロ) 取締役波佐間昇は同じく毎朝七時(夏季は六時)に使用人一名を連れて店を出発し、福岡青果市場箱崎支店に赴き、代表取締役と連絡の上仕入れをし、午前一一時頃帰店、代表取締役、使用人と共に午前・午后選別に従事、消費者本位の代表取締役の方針に沿つて終日使用人の接客を監督、自らも率先販売に従事し、夜は午后一〇時まで毎日十四時間半夏季は十五時間半勤務する。
(ハ) 取締役波佐間ユタカ、同シズ子は毎朝七時より販売に従事し、一カ月に一五日以上ある船積の際には朝五時より従事(使用人は七時半ないし八時)終日販売に従事し、夜は午后一〇時まで毎日十五時間ないし十六時間勤務する。
いわゆる役員給与は役員の勤労の対価であつて、その金額を定めるについてはよくその勤労の実質を勘案すべきであり、前述のような原告役員の勤務内容からすれば、申告にかかる原告役員給与は他の同業会社に比較して稍々多額であるとしても全く正当である。以上のことは、別表(一)に記載のように他の同業会社に、また別表(二)に記載のように一般会社に役員の業務状況等を比較してみれば明らかである。
尚前述の如く原告の営業場所はその特殊な地理的関係より船舶との取引が比較的多く、沿岸近接の同業者との競業上一率に五分値引きのほか、船員の接待にも経費を要する実情にあり、本件事業年度の値引金一〇五、〇〇〇円と交際費接待費金九六、〇〇〇円の合計二〇一、〇〇〇円を仮りに益金と計算するならば、収入金対売買利益率は一八パーセント、収入金対営業利益率は二パーセント、収入金対申告所得率は一、一パーセントとなつて、他の同業会社と大差ないのであるから、この点からも原告役員の給与額は不当でないというべきであるのに、その一部を否認したのは違法である。
(4) 仮に原告の役員給与が不当であり、被告のした否認が正当であるとしても、原告は万一役員給与が税務当局によつて否認された場合は、否認額をそのまま家賃に加算することを条件として、代表取締役波佐間喜与巳所有の店舗並びに取締役である波佐間昇所有の倉庫を一ケ月合計金一、五〇〇円で賃借したのであるから、被告の否認によつて右条件は成就し、その否認額は前記家屋の賃料として必要経費となり、結局原告の所得には何ら増減を生じないにも拘らず、被告がこれを無視して本件決定をしたのは違法である。
と述べ、被告の主張に対し、
原告がその主張のような同族会社であつて本件事業年度における原告の資本金収入金売買利益、営業利益、申告所得額、人件費総額、各役員支給給与額、従業員給与額及び有限会社中尾商店の資本金、従業員数、営業場所面積、収入金、有限会社黒田商事の営業場所面積、役員報酬がそれぞれ被告主張のとおりであることは認めるが、別表(三)(四)(五)記載の各会社のその余の資本金、収入金売買利益、営業利益、申告所得額、人件費総額、役員給与、従業員給与の金額、従業員数、営業場所面積はいずれも不知、中尾商店、黒田商事の売買利益、営業利益、申告所得額、人件費総額、黒田商事の収入金は不知、中尾商店の役員報酬は四五、五〇〇円一人当りの報酬は二二七、五〇〇円、黒田商事の従業員数は六人で一人当り収入金は一、四四七、五〇〇円である。原告会社における本件事業年度の従業員数は一一、九人である。しかも原告会社においては二箇処で仕入れをしているため一日少くとも平均一、三人相当の余分の人手を要しており更に鯖漁業の最盛期にあつた本件事業年度においては少くとも隔日の船積の為、一日平均二人相当の人手を要していた。従つてこれらの人数を控除すれば実質的には従業員は八、六人となり一人当り収入金は二、四二五、〇〇〇円となる。また営業場所面積は二〇、二七坪であり、道路を隔てたバラツク建は倉庫であつて従業員の配置をなさず除外すべきである。しかして坪当り収入金は一、〇二八、九〇〇円である。しかも営業面積と坪当り収入金との関係は店舗の位置、構造、商品陳列の方式に左右されることが甚だ大きいのであつて原告会社は道路に沿い縫二列横三列の通路を設けているので通路のうち六坪を除外するときは坪当り一、四六一、五〇〇円となる。
しかして被告主張のように原害と別表記載の各会社との比較によつて原告の役員給与を認定することは誤つている。何故ならこれらの各会社はいずれも原告より小規模、役員の従業時間等においてもはるかに少くこれらの個人的要素を無視して一律に比較することは不当である。殊に売買利益に対する人件費の多寡は配達の有無、程度、使用人に対する依存度の強弱、商品手入れの精査等各店において著しく異り、これを画一視するのは実状に則しないし、このことは人件費総額や営業利益に対する役員報酬の比率についてもいえることであり、役員給与の適否はあくまで個人的要素について決すべきである。
と述べた。
被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁並びに主張として
(一) 請求原因事実のうち(一)(二)の事実は認める。本件決定が違法であるとの点は否認する。
(二) 法第三二条が青色申告書を提出した法人に対し、青色申告書を提出した事業年度分について、法人税額を更正したときに、その通知書に理由の附記を要求した法意は、主としてそれによりできるだけ納税義務者に当該処分の正当なことを納得させ、無益な争訟の発生を防止しようとすること、あわせて青色申告の承認を取消されることのないようまた将来の経理を慎重にするよう注意を喚起し、青色申告制度の円滑な運営並びにその助成に資そうとするものに他ならず、要するに右規定は税務行政上の便宜の考慮に基く訓示規定(勧告規定)に過ぎないものであるから、理由の附記の欠缺又はその簡略は更正処分自体の効力には全く影響を与えるものではない。従つて原処分の通知には理由の附記を欠くから違法であるという原告の主張はその主張自体既に理由がない。仮りに右規定が訓示規定でなく効力規定であるとしても原処分の通知書には理由が記載されている。
即ち差益洩、役員給与否認、償却認容、積立金期中減の各項目及びその金額が明記されており、これは前記規定によつて要求される充分な理由の附記というべきである。また右規定によつて附記を命ずる更正の理由とは更正即ち、課税標準等の税務当局における調査決定に基く税額の確定についての課税標準額ないし税額の算定の根拠をいうものと解せられるが、法の附記を命ずる前記の目的からすれば、本件の通知書に記載されている程度の記載があれば、右算定の根拠の記載としては充分であるというべきである。
(三) 次に法第三一条の三、第一項の規定は同族会社の行為又は計算でこれを容認した場合においては、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、政府の認めるところにより右行為計算を否認して、同法第二九条ないし第三一条の規定により更正又は決定ができるという趣旨であつて、他の理由により更正又は決定すすなに際してのみ併せてはじめて行為計算の否認が出来ると解すべき理由がないのであつて、若し原告主張のように解すれば、同族会社の行為又は計算の否認すべき事項があつても、他の理由がない限り更正又は決定が出来なくなり、著しく課税の公平を欠き、同条の規定を設けた法の趣旨に反するのであつて、原告は右条項を故意に曲解するか又は独自の見解を主張するに過ぎない。
(四) 本件決定における課税標準額は原告が本件事業年度中にその役員に対し支給した給与の計算の一部を否認した上認定されたものである。
原告は法第七条の二第一号に該当する同族会社であり、別表(三)(四)(五)に記載の有限会社梶原良英商店、株式会社後藤商店、同保坂市場、有限会社丸藤商店、同津和崎食料品店、黒田商事有限会社の各会社も亦、原告会社と業種業態の類似している同業会社である。しかして本件事業年度における原告会社の、及びほぼ同時期頃における右訴外各会社の各資本金、収入金、売買利益、営業利益、申告所得額、収入金の売買利益、営業利益、申告所得額に対する各比率、営業場所は別表(三)の各該当欄に記載のとおりであり、原告会社と前記訴外各会社の人件費総額、役員報酬、及びそれらの収入金、売買利益、営業利益に対する各比率は別表(四)(六)の各該当欄に記載のとおりであり、また原告会社と右各会社の各営業場所、坪当り収入金、全従業員従業員一人当り収入金、役員一人当り報酬、従業員(役員を除く)給与、従業員数、一人当り給与額は別表(五)の各該当欄に記載のとおりであり、更に各販売品目、役員の業務状況等は別表(七)に記載のとおり、その原告会社における役員従業時間は代表者及びその妻は十五時間専務取締役は十四時間であることが明らかである。また有限会社ドンバル工場、筑紫自動車株式会社、株式会社の各資本金、業態、本件事業年度とほぼ同時期頃の収入金、売買利益、営業利益、申告所得額、人件費総額、役員報酬は原告の主張に対し別表(八)に記載のとおりに主張する。
そこで原告会社と前記他の類似会社とを前記の事実より比較すれば原告会社の各役員に支給した給与が類似同業会社のそれに比較し著しく過大であり、そのため、営業利益ひいては申告所得額が甚しく過少になつていることが明らかである。
従つて、被告は原告の本件事業年度における代表取締役波佐間喜与巳、取締役波佐間昇、喜与巳の妻波佐間シズ子、昇の妻ユタカに対する各給与額をそのまま容認した場合は法人税の負担を不当に減少させるものとして、類似同業会社の役員に対する給与額を勘案した結果別表(六)に記載のとおり、右四名に対する給与総額金一、二六九、〇〇〇円のうち金四八九、〇〇〇円を否認したものである。
原告の本件事業年度における所得額は前記給与計算の一部否認及び減価償却等を控除すれば
<1> 申告所得 四九、八七九円
<2> 役員給与否認 四八九、〇〇〇円
<3> 減価償却 三、七五〇円(原告が控除しなかつたもの)
<4> 積立金期中減 四一、九七六円(〃)
<5> 所得 四九三、一〇〇円
(〔<1>+<2>〕-〔<3>+<4>〕)
となる。従つて本件決定は適法である。
(五) 請求原因(三)(4) に記載の如く家屋の賃貸借契約に原告主張の条件で附せられていることは知らない。仮りに原告と訴外波佐間喜与巳同昇との間にそのような約があつたとしても、将来如何なる給与計算が否認されるかは税務当局の認定にかかるものであるから、加算さるべき建物の賃料額は本件事業年度においては不確定のものといわざるを得ない。このような数額不確定の賃料を法人税法上損金に算入することは認め難いから原告の主張は失当である。
と述べた。
立証<省略>
理由
(一) 請求原因(一)(二)の事実については当事者間に争いがない。そこで被告のした本件決定に原告の主張するような違法があるか否かについて順次判断を加える。
(二) 先ず原告は原処分の通知書には法第三二条に規定する適法な理由の附記を欠き、本件決定もその違法を承継していると主張する。被告は右規定が理由の附記を要求しているのは、主としてそれによりできるだけ納税義務者に当該処分の正当なことを認識させ、無益な争訟の発生を防止すること、合せて青色申告の承認を取消されることのないよう将来の経理を慎重ならしめるよう注意を換起し、青色申告制度の円滑な運営並びに助成に資そうとするに他ならないと主張するが、しかし納税義務者に処分の正当性を認識せしめ、無益な争訟の発生を防止し、或は経理を慎重ならしめようとする趣旨ならばそのような必要は決して青色申告の場合にだけに限られることはない。
ところで法の青色申告制度は法律の定める一定の帳簿書類を設けて記帳をし政府の承認に基いて青色申告書を提出する納税義務者をそうでない納税義務者よりも優遇することによつて税務行政の合理化、円滑化をはからんとしたものであると解せられるが、青色申告書を提出した法人の有する特典は法人税法その他の法令上にいろいろ規定されて居り、法第三二条が青色申告の場合に限つて更正の通知書に理由の附記を要求しているのもやはり右特典の一である。同様な特典の一として法第三一条の四は青色申告によらない場合には所謂推計方法による更正を認めるに対し青色申告の場合にはこれを許さず、原則として帳簿書類を調査した結果、課税標準又は欠損金額の計算に誤りを認める場合に限つて更正をすることができる旨規定することにより、青色申告をその他の申告よりも尊重信用し、これを更正し得る場合を出来る限り制限することを明らかにしている。従つて税務当局に対し青色申告の場合の更正の通知に理由の附記を求める前記第三二条は右法第三一条の四の規定と相俟つて、青色申告の際の更正を適正且つ慎重ならしめると共に、青色申告書を提出した法人に更正の理由を了知させて、不服申立をすべきか否かの判断の資料を与えようとするものであることと解することができるのであり、従つて通知書に理由の附記を欠く更正は違法であつて、被告の主張するように法第三二条を単なる税務行政上の便宜に基く訓示規定であると解すべきではない。
成立に争のない甲第四号証によると、原処分の通知書には更正の理由欄に「差益洩2,098.000役員給与否認489,000償却認容3,750積立金期中減41,976 」と記載されていることが明らかである。そこで右の記載が法第三二条によつて要求される理由の阻記として適法な記載であるか否かについて判断すると、法第三二条が要求する理由記載の程度としては、申告にかかる課税標準等の数額が具体的に如何なる項目における如何なる節囲の数額において誤りであるか、即ちなされた更正にかかる数額が申告額のうちのどの部分をどのように訂正した結果算定されたものであるかという程度の記載があれば充分であると解すべきであり、申告額について訂正された部分が何故誤りであるかという点についてまで記載を要求されているものとは考えられない。原処分の通知に附記されている前記記載は更正の理由として訂正すべき各項目並びに各金額を明記しているのであり、理由の附記として適法な記載であるというべきである。従つて、この点については原処分は何ら違法ではなく、従つて本件決定もその違法を承継していないから原告の主張は理由がない。
次に原告は政府において同族会社の行為又は計算を否認し得るのは他の理由で更正又は決定をする場合に限るのに、被告はかかる更正又は決定を離れて否認のみをしたのであつて違法であると主張するのであるが、法第三一条の三、第一項の趣旨は課税の公平を計る為に同族会社の行為又は計算でこれを容認した場合においては、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、右の行為計算を否認して所得金額、税額を計算して、更正又は決定ができるとするものであつて、他の理由によつて更正又は決定をするときに限ると限定すべきでないと考えるを相当とするから原告の右主張も理由がないものというべきである。
更に原告は原告会社における役員給与は正当であつて法人税の負担を不当に減少させるような過大なものでなく、従つて被告のした給与の否認は不当であると主張する。
同族会社がその役員に対して支給した給与の額がその同族会社と業種、業態、規模等の類似する一般会社において前記同族会社役員と類似する役員に対して通常の場合支給する給与に比較して多額であると認められる場合には、その多額であると認められる金額については、たとえその行為計算が有効且つ適法なものであつても、法第三一条の三の規定の適用により適正額に引直して、当該会社の所得金額を計算すべきものと解するを相当とするところ、原告が資本金一、〇〇〇、〇〇〇円の青果物、罐詰、その他の販売をする同族会社であること、本件事業年度における収入金は二〇、八五七、〇〇〇円、売買利益は金三、五二〇、〇〇〇円、営業利益は三一五、〇〇〇円、申告所得額が金四九、八〇〇円、また役員給与は代表取締役波佐間喜与巳に対しては昭和二九年一二月迄は四〇、〇〇〇円、昭和三〇年一月以降は四五、〇〇〇円を、亦取締役波佐間昇に対しては同二九年一二月迄は三〇、〇〇〇円、同三〇年一月以降は三五、〇〇〇円、右両名の妻波佐間シズ子、同ユタカに対しては昭和二九年一一月一五日取締役就任と同時に同年四月に給与額をさかのぼらせて同月分より同年一二月迄は各一五、〇〇〇円、(同年七月は他に四、五〇〇円)同三〇年一月以降は二〇、〇〇〇円を支給したとして申告したこと、被告は本件決定において別表(六)に記載のとおり波佐間喜与巳に対する支給額は二五、〇〇〇円を、波佐間昇に対する支給額は二〇、〇〇〇円を、波佐間ユタカ、同シズ子に対する支給額は金一〇、〇〇〇円を越える額を各否認したことは当事者間に争がない。
被告は別表記載の有限会社梶原良英商店、株式会社後藤商店、株式会社保坂市場、有限会社丸藤商店、同津和崎食料品店、同中尾商店、同黒田商事は、原告と業種、業態、規模の類似する会社であるところ、原告会社支給の役員給与はそれらの類似会社のそれに比較して著しく過大であるからその一部を否認したものであると主張する。
そこで先ず前記各会社が被告の主張するような類似会社であるか否かに判断すると成立に争のない乙第一ないし第八号証によればこれら各会社(以下黒田商事を除く)の営業場所資本金収入金は別表(三)の各該当欄に、販売品目は、別表(七)の販売品目欄に記載のとおり(以下一、〇〇〇円未満は切捨)であることが認められ、前記争いない事実から認定される原告会社の資本金収入金営業場所販売品目に対比すれば、前記各会社は保坂市場を除いてはいずれも原告よりも小規模且つ販売品目にも異るものがあり営業場所もそれぞれ異るけれども、大体において青果物を主として販売する被告主張のような原告と業種、業態、規模の類似する会社であると認めるを相当とし、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
次に前掲乙第一ないし第八号証によれば、前記訴外各会社の収入金、売買利益、営業利益、申告所得額、確定所得額は別表(三)の各会社の収入金売買利益、営業利益、申告所得、確定所得額欄に各記載のとおりであることが認められる。そこで原告会社及び前記訴外会社の売買利益の収入金に対する比率を算出すると別表(三)の収入金対売買利益率欄に記載のとおりであることが認められ、これによつて原告会社の比率と訴外会社のそれを比較してみると、原告会社の右比率は一六パーセントであるのに対し、他の会社のそれは一三ないし二三パーセントであることが認められ、売買利益については原告会社は前記他会社と大差ないことが明らかである。
しかしながら同様にして原告会社、前記各訴外会社の各営業利益、申告所得の各収入金に対する比率を算出して、原告会社の比率と前記各会社のそれとを比較してみると、別表(三)の収入金対営業利益率、収入金対申告所得率欄に記載のとおりであり、収入金対営業利益率においては他会社は三ないし五パーセントであるのに対し、原告のみは一パーセントに過ぎず、また収入金対申告所得率に至つては他会社は二ないし四パーセント(保坂市場は〇、八パーセント)であるのに対し、原告会社は〇、二パーセントに過ぎないことが認められ、右事実によれば原告会社の一般経費、特別経費が他の類似同業会社に比し特に高く算出されていることが推認される。
なお訴外会社における各役員給与は前掲乙第一ないし第八号証によれば、別表(四)(五)に記載のように認められ、右給与と、前掲争いない事実から認められる原告会社支給の役員給与を比較すると、比較会社は代表取締役においては二五、〇〇〇円が最高であるのに対し、原告会社代表者のみは四五、〇〇〇円専務取締役においては他会社は二〇、〇〇〇円が最高であるのに対し、原告会社のそれは三五、〇〇〇円、また代表者の妻は一万円、後藤商店のみが一万五千円であるのに対し原告会社のみは二万円に上つていることが明らかである。
原告は原告会社の役員においては他会社の役員に比しその勤務内容が質量共に卓越しているから、他会社とその給与額について差がついても何ら不当でないと主張し、証人高橋光雄、同白水荒太郎の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば原告会社の各役員はその主張のように非常に熱心に率先して店の経営に当つていることが認められるけれども、他方前掲乙第一ないし第八号証によれば他会社においては代表者は一二ないし一七時間その妻は一〇ないし一六時間専務は一三ないし一六時間であることが認められ、原告会社の役員等の従業時間がその主張のように十五・六時間ないし十四時間半であるとしても従業時間においては大差なく、原告会社の役員のみに他会社と著しく差をつけて高額の給与を支給すべき特別の事情は存しないというべきである。
更に原告は、原告会社において営業利益ないし申告所得額が低くなつているのは特別な地理的事情より船との取引が多く、値引、接待費が多額に上つている為であつて役員給与が高額であるためでないと主張する。
成立に争ない甲第二号証によれば本件事業年度において値引は一〇五、五一七円、交際接待費は金九六、〇〇〇円であることが認められるが、他方成立に争ない乙第一、二号証の記載及び証人津和崎辰美の証言によると、後藤商店においても約八五、〇〇〇円の値引、三九、〇〇〇円の交際費、中尾商店においても一五、八二五円の交際費、若干の値引、また津和崎商店においても値引、交際費が計上されていることが認められ、右事実によれば値引、交際費は原告会社のみに特殊なものとは認められず、ただその額においてやや大であることが認められるのみである。
その他原告会社における役員給与を特に高額ならしめる事情を認め得るに足る証拠はない。
よつて本件の場合原告が代表取締役、専務取締役、取締役に給与として支給すべき適正額について判断する。
前記認定の事実関係の下において原告が役員四名に給与として支給すべき適正額は被告主張のように代表取締役波佐間喜与巳に対しては金二五、〇〇〇円以下専務取締役波佐間昇に対しては金二〇、〇〇〇円以下、取締役波佐間ユタカ、同シズ子に対しては金一〇、〇〇〇円以下であると認めるのが相当である。
原告は、次に役員給与が否認されたならば、原告会社と波佐間喜与巳、昇との間に右否認額を家屋の賃料に加算する旨の契約が成立して居り、被告の否認と同時に条件が成就し、賃料となつている旨主張するが、右主張のとおりであるとしても将来如何なる給与計算が否認されるかは税務当局の認定にかかるものであるから、加算さるべき建物の賃料額は本件事業年度以降において確定さるべきものであり従つて本件事業年度においては不確定のものといわざるを得ない。このような数額不確定の賃料を法人税法上損金に算入することは認め難いから右主張も亦採用できない。
とすれば原告会社が代表取締役波佐間喜与巳、専務取締役波佐間昇、取締役波佐間ユタカ、同波佐間シズ子に対する給与として支給した金一、二六九、〇〇〇円を過大なりとして法人税法第三一条の三を適用して原告の申告した所得金額四九、八〇〇円に過大分の金四八九、〇〇〇円を加えて所得金額を四九三、一〇〇円とした被告の本件決定は相当であつて、その取消を求める本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 鍛冶四郎 中池利男 高橋朝子)
別表<省略>